東京大学経済学研究科の2020年度院試に関する覚書
はじめに
この記事は2019年9月3日に行われた東大経済研究科経済学コースの筆記試験、及び9月11日に行われた口述試験について、私が記憶している限りをまとめたものです。*1 東大経済の院試に関する情報が口伝になっているような状況も良くはないだろうと思って筆を執りました。
あくまで東大の経済学部に在籍している一個人が見聞き体験した情報に過ぎません。より確度の高い情報源があればそちらに当たるのが良いかと思います。また、外部生の方にはあまり役に立たない情報もあるかもしれません。ご了承ください。
昨年度の院試に関する情報はこちらにまとまっています。:
筆記試験
まず受験科目について。今年度から、経済学コース志望者の受けられる科目が
- ミクロマクロ基礎
- ミクロマクロ応用
の2つに固定されました。以前は応用の代わりに数学を選択したり、基礎の代わりに統計を選んだりすることができたのですが、今年からはミクロ経済学マクロ経済学で試験を受ける必要があります。
筆記試験を通過するボーダーは例年6割前後と言われています*2。 また、出願の際にTOEFLのスコアシートを提出する必要がありますが、こちらはほとんど見られないと言われています。50点代でも普通に合格するとかなんとか。
筆記試験で充分な点を取っていると口述試験は5分で終了するという体験談もちらほら聞こえており、提出書類や試験のうちで筆記がほとんどのウェイトを占めるというのは間違いなさそうです。
以下、今年の問題についての簡単な所感を述べます。その後、簡単に自分の試験対策について書きます。
ミクロマクロ基礎
ミクロ基礎: 大問が2つあり、競争均衡とクールノー競争の問題。どちらも標準的な問題だが、最後の設問で一捻り加えていた。競争均衡は厚生経済学の第一基本定理が成立しない状況の理解、クールノー競争は川上企業を導入した場合について問う部分。頻出分野であるし、落ち着いて解けば問題なさそう。
マクロ基礎: マクロ経済学に関するキーワード・コンセプトを説明させる問題とコブ・ダグラス型関数を生産関数に持った企業に関する問題。これも標準的だったが、フェルドシュタイン=ホリオカ・パズルを問われて多くの受験生が悲鳴を上げたと思われます。私も解けなかった。
ミクロマクロ応用
ミクロ応用: 労働市場において異質な主体が存在する場合の均衡に関する問題。さらに労働市場の独占が発生している場合についても考える必要があり、やや考える必要がありました。
マクロ応用: 借り入れ制約の下での消費者の効用最大化問題。例年通りミクロ的基礎づけのあるモデルを考えさせるものだったが、今年は供給側を捨象しているためやや簡単め。
口述試験
出願前に提出した希望専攻に応じて面接部屋が割り振られます。基本的に専攻分野の教授・講師陣が面接官となっているようです。部屋(専攻)によっては筆記試験の点数順に面接の順番が決まり、最初の方は5分ほどで終わるとかなんとか。当落線上にいる受験生は30分以上詰められるという噂もまことしやかに囁かれています。
以下、私が受けた質問です。記憶が曖昧なので、いくつか抜けているところがあるかもしれません。
- (事前に提出した研究計画書について)どんな研究をするのか、30-60秒程度で説明してください。
- 研究計画について予想される困難にはどんなことがありますか?
- また、その対策としてはどんなことを考えていますか?
- 専攻について、特に興味のある分野・トピックにはどのようなものがありますか?
- 修士課程を修了後の進路はどのようなものを考えていますか?
修士課程以後についての質問について。意気揚々と「博士課程に進みます!」などと言うと撃沈するという噂を聞いたので、修士の状況を見て考えます、と返答をした覚えがあります。面接で聞かれることは、基本的に一定の準備をすれば詰まるほどではないと思います。
研究計画について、理論モデルを明確に書いているとその部分を詰められるということもあるそうです。私はそこらへんを簡単にしか書かなったためか、特にツッコミはありませんでした。
試験を受けるにあたっての準備
個人的に院試に役立ったと感じた教科書・参考書や、東大で受けた授業を書いておきます。面倒なのでリンクにアフィリエイトはつけていません。
ミクロ経済学(基礎・応用)
「力」はミクロ経済学の教科書であり、「技」は対応した問題集です。東大経済学部の2年生が履修する「ミクロ経済学」の授業における神取先生の講義・宿題をまとめたような内容になっています。
極力数式を排してわかりやすく書かれており、経済学的な直観を養う上では非常に有用だと思います。一方で院試問題を解く上での数学的なトレーニングには以下に紹介する問題集を使いました。
奥野正寛先生が編著を務めるミクロ経済学の教科書に対応する問題集ですが、私はこれ単体で使いました。第1版は確認していませんが、新版は問題数を増やしたそうです。一般均衡、パレート均衡を求める問題や情報の非対称性など、東大で頻出の問題はこれ一冊でカバーできます。
グレーヴァ香子先生が書かれた非協力ゲーム理論の教科書です。直観的な解説と数学的な定義が両方とも盛り込まれており、問題数も一定量あります。東大のゲーム理論の授業を取ることができなかったので、私はこれでカバーしました。
- コアミクロ(「上級ミクロ経済学I」)
東大の大学院授業ですが、学部生も履修することができます。毎年Sセメスター(夏学期)に開講し、市場理論を扱います。最後まで受けることでかなり理解が深まったと思います。
マクロ経済学(基礎・応用)
通称「二神マクロ」です。自分はマクロにはあまり明るくないのですが、東大入試の準備という観点ではこの教科書をしっかりやっておけば困ることはないと思います。ミクロ的基礎づけのあるモデルから学部レベルのマクロ経済学まで、ほとんどカバーしています。
以上です。間違っている情報などあれば、ご指摘いただけると幸いです。